あおきDIARY

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銀座店

炉開きの装い

日中、陽によって温められた空気が夕方になると急に冷え、生垣や街路樹の香ばしい香りがフッと漂います。
さらに気温が下がると、皮膚がピリッと冷気を感じて冬の訪れを思わせます。
そんな秋から冬への過渡期、楽しみなお茶の行事がやってきます。
炉開きです。

炉開きはよく「茶人のお正月」と表現される特別なお祝いで、亥の月の旧暦10月(=新暦11月)、最初の亥の日に行われます。炉といわれる茶用の囲炉裏を開いて火を起こし、その年に摘み取られた新茶で新たな年を迎えるという感謝と喜びの日なのです。
その際、新茶が詰まった茶壺の口を開ける事を「口切り」といい、正式な「口切りの茶事」が行われる事もあります。

*新茶の詰まった壷 先生のお教室にて


なぜ亥なのかといえば、陰陽五行説では亥は極陰とされる水性で、火に勝る性質。
現在のようにコンクリートも鉄筋もない昔は、火災は生活上最大の恐怖だった訳で、この亥にあやかって、江戸の頃には亥の月・亥の刻に囲炉裏や炬燵を開いて火を入れるという習慣ができたそうです。
そして炉開きではよく「亥の子餅」がお菓子として出されますが、こちらも亥にあやかる事しかり。
イノシシは多産のため子孫繁栄の象徴でもあり、大豆、小豆、胡麻、栗、柿などを練り込んだ餅を頂き、長寿と健康を祈ったということです。

流派によってはおぜんざいをお菓子に頂く事も多いです。
これは亥の月日が陰であるのに対し、小豆が陽であるので、陰陽の和合を図っているという説があります。他にも、一休和尚がぜんざいを一口食べたとき「よきかな(善哉!)」と絶賛され、とても良い=おめでたいという事で炉開きにも用いられるようになったという説、また神無月(出雲では神有月)に出雲に集まった神々に振る舞われる「神在餅(じんざいもち)」が訛って伝わったという説もあります。

*先生お手作りのぜんざいのお膳

お箸は手前が黒文字、向こうが赤杉という組み合わせになっています。
黒文字が添えられるのは主菓子という証ですが、黒文字一本では食べにくいので、こうして杉箸を添えて、箸としての補助の役目を果たしているという訳です。

そこで最も気になるのが装いですよね。
正式なお茶事なら紋付きの色無地や訪問着に格高の袋帯、となるところですが、炉開きの多くはお稽古を兼ねた社中の行事となりますので、フォーマル度はそれほど高くなく、それでいてキチンと感のあるコーデがふさわしい気がします。
例えば江戸小紋に有職文様の名古屋帯、または飛び柄小紋に季節柄の名古屋帯。もちろん色無地に軽めの袋帯。いろいろとアイディアが浮かびますね。
以下にご提案コーデをご紹介してみます。

基本はまず先生におうかがいする事が一番だと思いますので、そちらを踏まえて、 炉開きにふさわしい装いを見つけてくださいませ。

*菱形松葉文の小紋に七宝繋ぎの染名古屋帯

*兎文の小紋と市松に花の図の染名古屋帯

*手毬の図の小紋に青海波文の染名古屋帯

*小花の七宝繋ぎの小紋に花唐草文の染名古屋帯

*高麗納戸色の色無地に秋草の図の織名古屋帯

今年は世界的に生活環境が一変する思いがけない年となりましたが、それでもこうして新茶を頂ける節目を迎えられる事に感謝致したいと思います。

皆さまも来るべき節目のシーズンに向けて、お着物や帯を見つけにいらして下さいませ。
銀座店スタッフ一同、心よりお待ち申し上げております。

銀座店スタッフ 松浦