あおきDIARY

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銀座店

歳月人を待たず

お茶のお教室等でも、12月になるとよく掛物に使われる言葉があります。

「歳月人を待たず」

本当に一年があっという間ですね。今年は特別にいろいろな事があったにも拘らず、より速さが増しているような気がいたします。一般的には、歳月は待ってくれないので勉学に励むべしという解釈なのですが、原本を紐解いてみると全く違った意味合いがあるようです。

出典は陶淵明の漢詩「雑詩」の中の一編。

人生無根蒂 飄如陌上塵
分散逐風轉 此巳非常身
落地爲兄弟 何必骨肉親
得歡當作樂 斗酒聚比鄰
盛年不重來 一日難再晨
及時當勉勵 歳月不待人

要約すれば、
人生は塵のようなもので不朽不変の存在ではない。
生まれ落ちて兄弟となるのは肉親だけではない。
嬉しい事があれば一緒に喜び、隣人と酒を酌み交わそう。
盛りの時期は二度とやって来ないのだから、勉めて楽しく過ごすべきである。
歳月は人を待ってくれない。

という事なので、これは最後の一句が一人歩きして、若者に勉学を推奨する言葉として使われるようになったと考えられます。実は、人生を楽しむ事を奨励しているのですね。
とはいえ、禅語というのは自分の中で解釈するものだから、どちらもありだと私は思っています。言える事は、そう、歳月は人を待ってくれないのです。
この語と共に思い浮かぶのが、長い時間をかけて染織を発展させてきた先人たちの事です。どんな種類の織物も染物も、多くの人々が本当に長い時間を費やしてきた成果なのだと、日々着物に接する度にしみじみと感じます。

その感慨がより深いものとなりますのが、北村武資さんの帯を手に取る時。
北村さんは龍村平蔵さんや喜多川俵二さん同様、正倉院裂などの上代裂を研究・復元し、独自の世界観を展開する日本染織界の重鎮です。「羅」と「経錦」の技法で人間国宝に認定されていますが、それは北村さんにとっては仕事の一部にすぎず、織の種類は沢山あるが、どれも基本はみな一緒、と仰っています。15歳から西陣で織物をゼロから学び、龍村美術織物で勤務を経て独立、制作歴は60年以上。 その長年の経験で培われた、超越した感性と技術が生み出す言葉なのでしょう。

帯3604:人間国宝 北村武資作 袋帯

帯3592:人間国宝 北村武資作 経錦 袋帯 銘「六稜華文」

北村さんはその長きに渡る年月を、自身の制作にひたすら没頭し、楽しみながら、また時には苦しみながら費やして来られたのでしょうか。

歳月は人を待ってくれない。

ならば、私たちも勉めて着物を楽しんで行きたいと、しみじみ思う今日この頃です。

*今週のお店のお花。鮮やかな赤が年末の雰囲気を盛り上げてくれます。

銀座店の営業は、
年末は 12月26日 (土曜日)まで、
新年は 1月 6日 (水曜日)より、となっております。
皆さまのお越しを心よりお待ち申し上げております。

銀座店スタッフ 松浦