墨黒の麻地に巻き上げや縫い締め、一目など様々な絞りの技法を用いてひまわりやトンボたちが大らかに表現された夏の名古屋帯です。ピンクやブルー・イエローなどのパステルカラーを使っていますが、どれも背景の黒を映してトーンが程良く抑えられており、ほのぼのとして可愛らしい色やモチーフも甘くなりすぎず、上品にまとめられていますね。若い方はもちろん、歳を重ねた女性が夏紬やよそ行き浴衣、上布などにさらりとのせてお召し頂いても素敵だと思います。しっかりとした麻地ですので、5月頃から夏を通して様々な場面でお楽しみ下さいませ。
「献上博多織」の人間国宝として博多織の正統を守られた小川善三郎さん作の八寸名古屋帯です。こちらは渋紙色が近いでしょうか、こっくりとした赤みの茶色地に虫襖色と灰梅色で独鈷と華皿と縞を配した伝統的な五献上です。緻密な織り地に絹糸の光沢と共に端正な文様が浮かぶお品、シンプルながら長い時に磨かれた意匠ならではの確かな洗練を感じますね。博多織の場合は緯糸の打ち込みに強い力が必要なため、織り手が男性でなくては難しいといわれてきました。数少ない手織りの中でも最高の織り手が技術を尽くした見事な一本、凛として気品あふれる博多の真髄をお楽しみ頂けることと思います。
黒緑色が近いでしょうか、灰みの強い深緑系の地に濃藍や錆鼠・山鳩色など渋みのある色を用いて瓦重ねのような幾何文が配された、しな布の八寸名古屋帯です。しな布は縄文期までその歴史を遡ることができる古代布の1つ、現在では山形県や新潟県の一部で僅かに織り継がれています。しなの木のかたい樹皮を長い時間と手間をかけて糸に績み、織り上げられる布は丈夫で水にも強く、野趣豊かな布味は夏の帯地としてとても魅力的ですね。強い張りもふわりと締めてしまえば、熱が籠もらずとても快適です。モダンな色柄が力強い布の個性をより引き立てる一点、夏織物や上布などの装いにいかがでしょうか。
名門 河合美術織物さんから独立、定評ある織りの技術と格調を受け継ぐ西陣の名匠・帯屋 河合康幸さん作。こちらはお得意とする唐織の技術を生かし、黒の絽地に雪持ち芝文をすっきりと表現した夏の袋帯です。絽目を通してほんのりと白が透ける涼しげな黒地から、ふっくらとした甘撚りの糸による芝文が刺繍のように浮かびあがるお品、優雅な景色に唐織りならではの重厚感が光ります。色数を抑えた上品な古典意匠ですので合わせる着物を選ばず、装いに格調と洗練を添えて凛と引き締めてくれることと思います。
西陣の名門機屋・株式会社都さんのお品から、紗地に精緻な総刺繍でペルシャ更紗文が表現された全通の夏袋帯です。都さんのHPによれば、特に芸術性の高い選び抜かれた逸品のみが「都屋義兵衛」作として世にでており、また総柄の「網綉」は年間数点のみ制作される特別な帯とのことですが、細かい紗の帯地全てを一目一目掬い取り糸でくるみ上げるという、気が遠くなるような手仕事が重ねられた一点。その時代の工芸技術の粋を尽くした、まさに美術品の域にあるお品と思います。とても重いお仕事にもかかわらず、綴れのように裏に緯糸が通っていませんので、驚く程軽くしなやかな風合いに仕上がっています。洒落着のための帯ですが、やや渋めの穏やかな色調に極細い金糸も程良く添えられていますので、少し華やかな場面にも良く映えそうですね。作家物など上質な紬や艶感のある織りなどとも相性良く、現代の着物シーンでは活躍の機会も多いことと思います。ぜひお手に取ってご覧くださいませ。
象牙色の帯地全体を埋め尽くすように精緻な刺繍が施された蘇州刺繍の袋帯です。背景のドロンワークをはじめ様々な技法を駆使して唐花文が表現されたお品、どれだけの時間を費やしたのでしょうか、一針一針丹念な繍いが重ねられた景色はため息が出てしまうほど細やかで、目を凝らすほどにその贅沢なお仕事に圧倒されます。晴れやかな場面の装いには染め織り・絞りなど多彩な装飾がなされていますが、やはり刺繍作品はとりわけ華麗な存在感を見せてくれますね。重厚感あふれる華やかな一点、ぜひこの機会にお手に取ってご覧くださいませ。