今日は着物で。vol.2 春のはんなり はおりもの

着物でお出かけする機会が増えてくると、どうしても必要となってくるはおりもの。寒さも秋口まではストールで何とかしのぐことが出来ますが、厳寒期にはやはり防寒コートが欲しくなりますし、梅雨時には雨コートも必需品。また気温の高い季節だからといっても、外出時には汚れの危険がいっぱい…大切なお召しものを護ってくれる塵よけも用意しておきたいですね。また風情ある羽織のお洒落に魅せられてしまう方も多いことと思います。 今回は、素材などに悩みがちなこれからの季節の羽織ものを中心に「はおりもの」のポイントをまとめてみました。

1. はおりものの種類や季節、素材につきまして

(1)種類:

さまざまな種類のはおりもの、どれも着物に重ねて着用するアイテムです。それぞれの特徴を簡単にまとめてみました。

① 道行

着物用のコートとしては最も基本的なもので、イラストでご覧頂けます通り、四角く開いた衿部分と打ち合わせ部分に特徴のあるかたちです。防寒・塵よけ用ですが、素材や色柄によってフォーマル性の高いものとカジュアルなものに分かれます。

② 道中着

衿が見頃の裾まで続いており、着物と同じような衿合わせのコートです。脇に付いた紐で留めますので、とても脱ぎ着し易いかたちです。防寒・塵よけ用ですが、基本的にはカジュアルな印象となります。

③ 羽織

裾まで続く衿を外側に折り返したかたちの羽織りもの。前部分は重ならず、乳(ち) と呼ばれる共布の輪に羽織紐を通し、左右の見頃を結び留めて着用します。基本的には洒落着の扱いですが、紋を入れてセミフォーマルな場面に対応できるお品も見られます。厳寒期には道行や道中着の下に重ねても。 

④ その他 和装コート

他にも和装コートとしていくつかバリエーションがございます。道行に似ていますが角を円くした「都衿」、また「被布衿」や「千代田衿」、そして道中着と似ていますが衿に特徴がある「へちま衿」や「きもの衿」など、様々なお品が見られます。防寒・塵よけ用ですが、基本的にはカジュアルな印象となります。

⑤ ストールやマント

洋服用の大判ストールやマントなどを上記のコートの替わりになさる方も多いですね。防寒にはファーやカシミヤ、春先にはシルクシフォンやパシュミナなど素材や質感の選択肢も広く、脱ぎ着の手間も掛かりませんが、塵よけとしてはやや心配かもしれませんね。

⑥ 雨コート

文字通り、雨から着物や帯を護るためのコートで、道行型、道中着型、二部式など様々なかたちのものがあり、撥水加工を施した絹素材や、水に強い合繊素材が用いられています。

(2) はおりものの季節

着物や帯と同様に、羽織りものにも大まかな季節の括りがありますね。とりわけ春先から晩秋にかけては素材もめまぐるしく変わり、着用時期にはとかく悩みがちですが、現代では気候やお召しになる方の感覚に添ってお召し頂いてよろしいのではと思います。

  •   → 裏地の付いた仕立てのもので、素材は絹やウール、カシミヤなど
  • 単衣 → 裏地を付けない仕立てのもので、素材は絹や木綿など
  • 薄物 → 絽や紗、羅やレースなど透け感のある夏生地を単衣に仕立てたもので、素材は絹など
基本的には、12月~3月のやや暖かくなる頃までは「袷」のものを、3月から連休辺りの気温が上がる頃までは「単衣」を、以後9月頃までの暑さが残る間は「薄物」を、暑さが引いた9月後半から11月後半の肌寒くなる頃まではまた「単衣」、
のように、ご自身の体感でお選び頂ければよいのではないでしょうか。○月○日からは「○○」といった決まり事で考えず、生地の風合いや質感、その日の気温、下に着る着物によって臨機応変に行ったり来たりしながら、ご自身の体感で温度調節してお召し下さいませ。

(3) はおりものの格

紋が入っていたり、華やかな絵羽模様のはおりものは、着用場面や合わせる着物に悩んでしまうことがありますね。着物とはおりものの格についても少し触れておきたいと思います。この場合の「格」は形や柄ゆきで決まりますので、縮緬や綸子、絽や紗などの生地質に拘わらず同様にお考え下さいませ。

□ 無地の道行

吉祥文の地紋が入ったものなど色無地の道行は、はおりものとしては最もフォーマル性が高く、留袖や訪問着など格高の着物から小紋など幅広い着物に合わせてお使い頂けます。

□ 紋付の羽織

女性の羽織は基本的には洒落着の扱いですが、紋付の場合には合わせる着物次第で入卒の式典、改まった訪問など略式ながら礼を必要とする装いの際にお召し頂けます。

□ 絵羽の道行

訪問着や付下げのように柄が繋がった絵羽の道行は、とても華やかで存在感がありますね。色柄にもよりますが、少し改まったお席やパーティなどへのお出かけにいかがでしょうか。

□ 絵羽の羽織

訪問着や付下げのように柄が繋がった絵羽の羽織は、礼装としての格を必要としない華やかなお席にぴったりです。個性あるお洒落をお楽しみになりたいときに、ぜひお召し下さいませ。

□ 小紋柄や紬の道行、道中着、羽織

小紋柄や紬地のはおりものはお買い物やお食事など、日常のお出かけに気軽にお召しいただけます。 サイズが合わなかったり汚れてお召しになれなくなったお着物も、羽織や道中着に仕立て直して楽しむこともできますので、季節や気分に合わせていくつかお手持ちのものを増やしておくとお洒落の幅がぐんと広がりますね。

(4) はおりものの着用マナー

大まかながら、以上のような内容を目安にお考え下さいませ。

はおりものの着用マナーは
・道行・道中着・和装コート・雨コートなどは屋内に入る前に脱ぐ→ よく言われるのがオーバーコート感覚
・羽織は屋内でも着用していて良い              → よく言われるのがジャケット感覚
とされています。
羽織以外はお出かけ先に入る前に脱ぐことが前提です。例えば華やかな裾模様の留袖の上にカジュアルな小紋の道中着、などという場合には見た目にも違和感が出てしまいますが、全体を眺めて調和がとれていれば、さほど神経質にならなくて良いのではと思います。羽織りものも着物と同様、フォーマルとお茶席以外でしたら、先ずは好きなものを好きなように楽しむことが一番ですね。

2. サイズのポイント

はおりもののサイズのポイントといえば、やはり長さでしょうか。 道行、道中着、それぞれ裾までのたっぷりしたものから膝下長めのもの、膝すれすれくらいの長さ等々お好みもさまざまですね。

身長別サイズガイドをご参照頂きますと、初めての方にも大体のイメージを掴んでいただけるかと思いますのでご参照くださいませ。
羽織は以前は短めのものもありましたが、現在では膝丈ほどの一般的な長さや膝下まである長羽織のどちらかをお選びになることが多いようです。こちらもお好みが大きく分かれるところですね。

きもの青木 で新しく仕立てたお品は、ご希望が多いため100cm〜103cm程の丈が中心です。このぐらいの丈がありますと、電車などで汚れ易い膝裏辺りまでをカバーできますので、塵よけとしても安心かと思います。

雨コートはなかなか裾ぴったりの長さに出会うのが難しいものですが、リユースでサイズが合うものに出会えましたらとてもラッキーですね。意外に重宝なものがポーチに入った二部式のお品。持ち運びも楽ですし、着付け方に合わせて裾が雨に当たらないよう調整できますので安心です。

3. 羽織紐のこと

羽織のもう一つの楽しみは胸元にちょこんと乗っかる小さな紐。
帯締めと同じくしっかりと組み上げられた組紐のお品や、ビーズや天然石を使ったアクセサリー感覚のものなどいろいろです。組紐でも長めのものは蝶結び、短めのものは固結び、同じ紐でもずいぶん雰囲気が変わりますね。きもの青木 では京都の衿秀さんのお品から、使い易いお色目で紐先が撚り房のお品と苧環(おだまき)のお品をご紹介しております。きりっとした固結びのシンプルな姿も素敵ですが、ゆったりとした蝶結びも女性らしく優しい印象ですね。 皆さまのお好みはどちらでしょうか。

衿秀さんの羽織紐はコチラでご確認くださいませ。

※時折、乳(ち) に通しにくい硬い紐もありますね。
 引っ掛けるだけで紐を付けられるS鐶のご用意もございます。

4. 春夏のはおりもの いろいろ

暖かさやふっくらとした風合いなどに惹かれてしまう秋冬ものとは異なり、春夏のはおりものは透け感や色が創る「爽やかさ」が一番のポイント。着る人にとって実際に涼しいことはもちろん、見る側に伝わる清涼感も大切ですね。

お手入れの楽な合繊素材もありますが、やはり繊維が呼吸してくれる絹素材は、温度や湿度が高い季節にはとりわけ着心地が違います。紗や絽、羅やレース、夏織物…選択肢がぐんと増える夏素材、きっとお好みのお品が見つかることと思います。

大島紬や夏大島などでサイズの小さなものを見つけて、雨コートや薄物コートに仕立て替えをなさっても素敵ですね。

道中着 E-630

落ち着いた色目の無地の絽は礼装としてもお使いいただけるのでとても重宝します。

道中着 E-646

明るいパステルトーンの紋紗はお着物の色を透かして様々な表情をお楽しみくださいませ。

道中着 E-842

レースのような刺繍が美しいはおりもの。透明感のある陰影がエレガントですね。

道中着 E-848

竪絽の道中着は単衣から夏を通して使えますね。爽やかなお色目でスッキリとした印象に。

道中着 E-896

ほんのり甘さを添えた控えめな色柄の紋紗。江戸小紋や無地紬などに好相性ですね。

羽織 E-1016

オーガンジーに華文が刺繍で施された羽織。濃色のお着物に軽やかな涼感を添えてくれます。

羽織 E-1015

菱の紋紗にふわりと蛍暈かしが浮かぶ夏の羽織。淡色の夏着物に合わせてすっきりと。

道行 E-874

さっくりとした透け感が軽やかな道行。シックなお色目が大人の品格を備えていますね。

お着物で外を歩く時にはやはり、何か一枚羽織っていると安心感が違いますね。
着物の着用シーズンと僅かなずれがあるだけに迷ってしまいがちなはおりもの、あまり難しく考えず寒暖に合わせて柔軟にお楽しみ頂けたらと思います。 きもの青木 のはおりもの、こちらからご覧くださいませ。

※2019年3月発行
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