名古屋帯で過ごす、夏の装い

風薫る五月、気温もぐんぐんと上がってすっかり夏めいてきましたね。
まもなく夏支度!過去に当コラムでは縮や上布、ゆかたなどの夏きものについてご紹介させていただきましたが、今回は素材も織りも様々な夏の帯たちをご紹介いたします。

絹素材の夏帯

夏帯の素材と種類は本当に多種多様です。まずは夏の絹素材からみてみましょう。

地に絽目の入った織りの帯で、袋帯・名古屋帯ともにつくられています。絽目とは経糸の一部を絡めて透き目をつくった織り目のこと。透き目の方向や柄によって竪絽や変わり絽などに区別されます。

絽塩瀬

染め帯の染め下地に良く使われる素材で、絹らしい光沢のある滑らかな風合い。薄手で絽目が入っており、その粗密で透け感も様々です。九寸名古屋帯に仕立てます。

絽綴れ

張りのあるしっかりとしたつづれ地に絽目がはいった素材で、芯の入らない八寸名古屋帯に仕立てます。袷時期の綴れと同様に、絽綴も金銀糸を用いた格調高い柄のお品は、八寸帯でもフォーマル対応が可能です。

透け感の強い紗織りの地に唐織などが重ねられた織りで、フォーマル系の袋帯が多く見られます。 平織りすくい織りなどと組み合わせて柄を織り出す紋紗の名古屋帯などもございます。

粗紗

紗よりも太めの糸を用いたより隙間の大きい織りによる帯。幾何学的な柄や、豊かな個性で人気の高い西陣の帯屋帯屋捨松さんのお品など、カジュアルな八寸名古屋帯がよく見られます。

本羅

人間国宝の喜多川平朗さんや俵二さん、同じく人間国宝の北村武資さんの作品に代表される大変複雑な構造の織りで八寸名古屋帯のかたちです。似たものはあれど、本羅を製織なさる機屋さんは極少数です。

他にも生糸素材ではなく、紬糸を用いた手織りのお品や産地ものの夏バージョン(夏牛首や夏黄八丈、夏久米島など)もつくられています。

苧麻素材の夏帯

苧麻資材の帯は、用いられた糸質や太さ、織りの密度や布の薄さによって八寸名古屋帯も、芯の入った九寸名古屋帯もつくられています。麻素材特有のひんやりとした肌触りは暑い夏にはとても心地良いもの。芯の入った九寸は透け感も少なめですので気温の上がる早い時期から夏を通してその清涼感を楽しめます。また芯の入らない八寸は、素材そのものが確かな涼しさを約束してくれますね。

越後上布

国の重要無形文化財に指定されるお品は、経緯に稀少な手績みの苧麻糸を用いて地機で丹念に織り上げられます。八寸名古屋帯のかたちでは芯が入りませんので熱が籠もらず涼しく風を通し、盛夏にも快適な着心地を約束してくれます。

宮古上布

国の重要無形文化財に指定されるお品は、経緯に稀少な手績みの苧麻糸を用いて高機で織り上げられます。芯の入った九寸名古屋帯に仕立てられることが多く、草木染めの美しい彩りが盛夏の光に美しく映えます。

八重山上布

経糸には紡績の苧麻糸を、緯糸には手績みの苧麻糸が用いられる八重山上布は、苧麻独特のさらりとした風合いと島に自生する植物から得た草木染めによる美しい色が魅力。九寸名古屋帯に仕立てられたものが多く見られます。

能登上布

経緯とも紡績の苧麻糸が用いられ、高機で丹念に織り上げられます。深い藍色や整然と並ぶ絣模様が特徴の能登上布、芯の入った九寸帯が多く見られます。

その他 自然素材の夏帯

芭蕉布

沖縄の風土から生まれた芭蕉布は、バナナの一種である糸芭蕉から大変な手間暇をかけて取りだした繊維を用いて織り上げられる美しい布。水に強く熱を放出する能力に優れた素材で、こちらもその技術が国の重要無形文化財に指定されています。

他にも芭蕉布(糸芭蕉の繊維)、シナ布 (シナの木の樹皮)、藤布 (藤の蔓の繊維)、葛布 (葛の蔓の繊維)、楮布 (和紙の原料でもある楮の繊維)などの特殊な植物素材は、原始布或いは古代布と呼ばれ、縄文の頃から用いられてきたと言われる布です。 上記のような素材は、糸そのものに強い個性があり、ナチュラルで野趣豊かな布味が魅力ですね。

芭蕉布につきましては過去の特集コラムでも一度とりあげていますので、そちらもご参照くださいませ。
「特集コラム:芭蕉布を着こなす」
さっと見渡してみても、こんなにもバラエティに富んだ夏の帯、 今年はどんなお品をお選びになりますか?

夏帯の時期とは

夏帯を使う季節については、夏きものと同様にいろいろなきまりが気になりがち。でも改まった装いが必要な場面でなければ、そんなに気になさらなくても大丈夫です。 基本は、5月下旬あたりから9月一杯までを目安に。また何月何日等の細かい季節に合わせるのではなく、合わせる着物が「単衣や薄物」であること、でしょうか。

以前は例えば「麻は7月と8月に」と言われていましたが、近年はずいぶん気候が変わってきていますので、洒落着でしたら5月に単衣と合わせて芯の入った麻地の染九寸帯などをお締めになる方もいらっしゃるのでは?きものと同様に体感でお考え頂いて良いと思います。
特に最近の西陣の帯などでは、連休明けくらいから夏を通して秋口までお使い頂いても違和感のない、薄手で軽い透け感があるお品等、スリーシーズンお使い頂けるタイプの帯も増えています。 素材や織りのバリエーションが多いだけに難しく考えがちな夏の帯、ご自身の感覚で気軽に楽しんでくださいね。

涼やかに見せる 帯まわり

この時期にしか使えないけれど、独特の風情を備えた夏帯はとても魅力的です。 様々な素材や地風を知ることで夏きものもより幅広くお楽しみいただけるのではないでしょうか。
続いては、一点添えることで涼を運ぶ帯まわりの小物たちをご紹介いたします。

帯留めは夏帯との相性がとても好いですね。透明感のあるガラスや石、細工の凝ったアンティークの帯留めなど、確かな存在感のある夏らしい一品に拘ってみてはいかがでしょうか。装いに大人の気品を添えてくれることと思います。 こちらのお写真では、きもの青木銀座店のご近所、アンティークモールに入っていらっしゃる「夕顔」さんから素敵な帯留めをお借りいたしました。

繊細な絹糸の房がさらさらと涼しげなタッセルチャームは、夏小物で活躍する籠バッグや日傘、扇子などに結いてお洒落を楽しんでみてはいかがでしょうか。見た目の涼やかさだけでなく、ふとした時に肌を滑る房のやさしい触感に心もやすらぎ、小さなお守りのようです。 こちらは丁寧な手技で美しいお念珠を創られている「ひいらぎ」さんのお品。細部まで拘った洗練された表情が素敵ですね。
タッセルチャームはこちら

帯枕にも天然素材を取り入れて。こちらはへちまで作られた帯枕。へちま独特の質感と程よい柔らかさが夏帯ととても馴染みが良いのです。 へちまは軽くて吸湿性も高く、通気性にも大変優れていますので夏のお太鼓結びを快適に支えてくれます。ガーゼもへちまも水を通して洗えますので、汗の気になる季節にも気持ち良くお使いいただけますね。
へちまの帯枕はこちら

気軽なお出掛けでしたら帯枕も外してしまいましょう。銀座結びなどの変わり結びで少しでも熱の籠もらない涼やかな背中を維持したいですね。名古屋帯は半幅帯よりもボリュームがありますので、ヒップラインなどもカバーできるのが嬉しいところ。博多帯や麻の帯など、素材によってとても表情豊かになりますので、いろいろとチャレンジししてみてお気に入りの変わり結びを習得してみてくださいね。

きもの青木 おすすめの夏帯

栗山工房の夏帯

1952年、栗山吉三郎さんによって始められた型染めが栗山紅型です。和染紅型とも呼ばれ、沖縄の紅型の魅力を京都らしい洗練された感性を通して表現、型彫りから糊置き、彩色など全ての工程が工房内で手作業によって行われています。型染めの楽しさをたっぷり楽しんでくださいませ。
栗山工房の帯はこちら

本場筑前博多織 八寸名古屋帯

博多八寸名古屋帯は、紬や小紋、浴衣から夏織物、夏小紋など幅広い装いに合わせて、一年を通してお使い頂けるとても重宝なお品です。特に昔ながらの独鈷・華皿に縞を配した献上柄は、格調高くも独特の小粋な風情を備え、装いをきりりと引き締めてくれますね。涼しげにお使い頂ける綺麗な淡彩を取り揃えましたので、ぜひご覧くださいませ。
博多帯の商品はコチラ

着物初心者を卒業されても、夏きもの、夏帯は未経験の方も多くいらっしゃるようです。近年の夏の猛暑からも夏の着物を敬遠してしまいがちなのかもしれませんね。
きもの青木には日々多くの着物や帯が行き交い私たちもたくさんの素材に触れておりますが、やはり上布や芭蕉布など、この季節独特の織りには別格の魅力を感じます。自然素材のものは着込むほどに身体に馴染んでいきますし、織りの多様性や見事に季節を映し出した柄付けなども実に楽しいものが多いですね。
皆さまにも素敵な夏帯との出逢いがありますように。

※2019年5月発行
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