お茶ときもの、あれこれvol.3 ― 名残の茶から口切りへ

お茶のお正月がやってきます!

10月は和風月名でいえば「神無月」。全国の八百万の神さまが出雲に集い、様々な取り決めをするためお出かけになるので神さま不在の月。そのため、神さまが集まる出雲地方では「神有月」と呼ばれていますね。

二十四節気でいえば10月8日頃は大気が冷えて露となる「寒露」、下旬の23日頃になればその露が霜となって降りてくる「霜降」となります。

近年は気候変動で季節の移行が遅くなっておりますが、それでも少しずつ秋が深まってまいりました。

お茶の世界では10月を「名残」月と言います。前年11月から頂いてきた茶壷の中のお茶も残りわずかとなり、初夏から半年を共にしてきた風炉とも今月限りで炉と交代になる。そんな別れを惜しむ心情から「名残」と言われるようになりました。

二十四節気の呼称からも感じるように、秋が深まるにつれて寒々しく、寂れた風情に。そのため名残の茶では道具の取り合わせ、茶室のしつらえも「侘び寂び」に徹します。 風炉や釜も一部欠けたり割れたもの、茶碗も欠けを継いだりしたものを使ったり、風炉の灰には藁灰や縄灰まで入れ、これまで愛用して来たものを惜しんで捨てず、名残の念をもって次に生かす、という深い精神性も窺えるところです。

またこの頃には「中置」というお点前がなされます。 夏の間は暑さを避けるため隅に据えていた風炉を道具畳の中央に置き、客になるべく火を近づけ、温まってもらいたいという亭主から客への思いやりです。朝晩の冷え込みが強まる晩秋ならではの風景ですね。

そして11月、お茶の新年がやってきます。

千利休が「柚子の色づくを見て囲炉裏に」といったように、11月初旬の立冬を迎える頃に炉開きが行われます。

炉開きは「茶人のお正月」と表現される特別な行事。
それまで閉ざされていた炉を開いて火を熾し、その年に摘み取られた新茶で新たな年を迎えるという感謝と喜びの日なのです。

その際、新茶の詰まった茶壷の口を開ける事を「口切り」といい、正式な「口切りの茶事」が行われたりします。

*参照ブログ《炉開きの装い

夏の八十八夜頃に摘み取られた新茶は壺に封印され、半年の熟成期間を経て熟成され、ようやくこの日に至るわけで、まさに茶人にとっては新たな年の始まり。しつらえも「名残」の余韻は一掃され、畳表や窓障子を張り替えたり、炉壇も塗り替えられたりと新たな気分で新年が始まります。

そして年末年始を経て初釜へ。 このあとも、お茶は人の営みと季節と共に変化しながら続いて行きます。

それでは、来るべきお茶のシーズンに向かってお着物の準備をいたしましょう。

まず必携は色無地、江戸小紋

シンプルにして端正、帯合わせ次第で様々に表情を変える色無地、江戸小紋は必携の一枚。
色無地はお席によって地紋や色を考慮し、江戸小紋は三役、五役の定め柄がフォーマル度も高く便利です。風物詩や季節感を文様にしたいわれ柄をシーンに応じて装うのもお洒落ですね。また、一つ紋を付けておくと準礼装となり、幅広い場面で着用できるので重宝にお使いいただけます。

合わせる帯は有職文や古典文様の袋帯や名古屋帯、またその季節ならではの染帯など、お茶席の趣向や格に合わせて。

*参照コラム
礼を尽くした装いで -色無地・江戸小紋

今日は着物で。 vol.1 江戸小紋を着る日

炉開きの装い

炉開きは基本的に社中やお教室の行事となる事が多いので、色無地や江戸小紋に有職文や古典文様の織りの帯、飛び柄小紋に季節柄の染名古屋帯など、フォーマル度は高くなくてもきちんと感のある装いを。定番であってもお茶の新年である炉開きにふさわしいコーデを選びましょう。
不安な場合は先生にご相談なさると安心ですね。

*参照ブログ《炉開きの装い

茶会にはスタンダードな正装、訪問着・付下げが重宝

格式の高いお茶会では訪問着、付下げなどを着用しますが、フォーマル度の高い、品格のあるものを選びましょう。お色目は柔らかく、柄付けは小ぶりで胸や襟に柄が少ないもの。そうすればお道具の色や模様を邪魔しない、一歩控えた装いになります。また箔や刺繍がなく、華美になりすぎない加賀友禅なども好ましいでしょう。

帯合わせはやはり茶会の格に合わせて。例えば初釜や家元主催の茶会では有職文や古典文様の重厚な唐織や錦織の袋帯を、月釜やテーマ茶会では同じ古典文様でもその会趣に合ったもの、また時節に合わせた色柄や趣味性の高いものなど、色々と楽しんでみましょう。

装いに関しての気配りと留意点

お茶はなんと言っても周囲との調和が大切。亭主と客が心を通わせて和む場なので、会の趣旨と周りの雰囲気を察して装いを決めたいものです。その際は格の釣り合いを考慮し、正客や亭主に準じる装いを心がけましょう。

また茶席では亭主の用意した掛け物、お道具などが主役。亭主はその日のために工夫を凝らして道具の取り合わせや茶室のしつらえを考えますので、ご自分の身につける装いがお道具の柄などと重ならないように、名物裂や茶道具などの柄には注意したいところです。

こうした事を踏まえ、事前に茶会の詳細が分かればテーマや趣向、お道具などを確認しておくことも必要です。お席との相性を大切に、ご自身ならではの和やかな日の装いをぜひ見つけてくださいませ。

続いて一年で最も華やかなシーズンがやってきます。
引き続き青木をご利用くださいませ。

※2023年10月発行
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