お茶ときもの、あれこれvol.4 ― 年末年始は華やかに、晴やかに

ようやく秋が深まってまいりました。 朝晩の冷え込みで山々も色付き、キリッと澄んだ空気が心地良いですね。 こんなふうにしみじみと風情に浸るのも束の間、すぐに慌ただしい季節が到来します。

12月の和風月名はご存じ「師走」。その謂れは年末に法要のため師(お坊さん)が馳せる、忙しく走り回るという説が有力だそうですが、そういえば「忙しい」は_慌ただしさゆえ心を亡くす、と書きますよね。なるほど言い得て妙な表現です。

また年末を表すのに「年の瀬」という言葉がありますが、こちらは時の経過を川の流れに例えたもの。瀬は流れが急なところ、淵は流れが緩やかなところを示し、 「世の中はなにか常なる飛鳥川 昨日の淵ぞ 今日は瀬となる」(古今集)の歌のように、年末に於いてはあっという間に時が流れてしまう、という比喩的な表現なのだそう。

確かに、年末は年賀状やお歳暮の準備に挨拶回り、仕事納めに忘年会と大忙し。 もちろん、お正月の準備と大掃除も重要ですね。 古式ゆかしくいえば「正月事始め」。 年神様をお迎えするために払い清める「煤払い」や、門松にする松や雑煮を炊く薪を取ったりする「松迎え」を行なって、新年に向けての準備をします。

関東では12月8日、京都など関西では12月13日から始まり、28日までに終わらせると縁起が良いとされていますが、果たして拙宅では年内に終らせる事が出来ますやら…。

そして、お茶の催しも季節の行事に付随して盛り沢山です。

まず冬の定番は「夜咄の茶事」。
冬至を迎える頃から極寒の2月頃まで盛んに行われる茶会です。夕刻から開始され、蝋燭の光で炉を囲み、冬の長夜に会話を楽しむという趣向。薄暗い茶室に燭台の火が揺れる中でのおもてなし、何とも茶の湯らしい風情ある催しですね。

テーマ茶会としては「クリスマス茶会」が近年では最もポピュラーでしょうか。クリスマス菓子を戴きつつ、西洋の食器などを道具に見立てて聖夜を楽しむ茶会です。

今や日本の文化にすっかり溶け込んだクリスマスですが、実はキリスト教と茶の湯には深い関係が。安土桃山時代、「利休七哲」と称された千利休の高弟7人の中にはキリシタン大名の高山右近、蒲生氏郷、細川忠興などが名を連ね、ポルトガルの宣教師らと大いに交流を重ねました。その一人、イエスズ会宣教師ジョアン・ロドリゲスの著作「日本教会史」の中にも茶の湯に関する記述が多く、以後、日本文化が広く世界に知られる事となります。

かつての時代に想いを馳せ、お茶を戴くのも一興ですね。

一方、バタバタと気忙しいこの時期に一息着こうと催されるのが「歳暮の茶」。
親しい人々を招き、慰労と感謝の意味を込めた忘年会的な茶会で、暮れも押し迫った20日過ぎに侘びた風情で行われます。こうした「忙中閑あり」を楽しむのもお茶の醍醐味の一つですね。

そして大晦日は「除夜釜」。
新年を迎える準備をすっかり整えた後、一年を振り返り、ゆっくりと戴くのが除夜釜の茶です。その年の干支の付いた道具を使い納めして、12年後までの別れを惜しむ「送り干支」「終い干支」などが行われ、一年を無事終えることに感謝します。

除夜の鐘が響いて年を越し、明けて新年は「大福茶」を戴きます。 元旦早朝に汲み上げた若水で茶を点て、家内一同で戴くお祝いのお茶です。 京都では1000年前から続く慣わしで、煎茶に梅干しや結び昆布などを入れて戴くことも。 梅干しは「皺がよるまで元気に暮らせるように」、結び昆布は「睦み(むつみ)よろこぶ」にかけ、長寿と健康を願います。

そして新年の一大イベントである「初釜」へと繋がり、こうしてまた一年、人の営みと共にお茶も進んでいくのですね。

それでは年末年始ですので、お茶席での装いも華やかにまいりましょう。

初釜の装い

初釜は新年に初めて釜に火をかけるお祝いの茶事ですので、いつもより華やかに、新春の晴れがましさをアピールしたいですね。

お着物は格調高い訪問着、付下げ、色無地などを着用します。お色目は明るめで、濃色の場合はお顔映りの良いものを選ばれるとよいでしょう。柄も松竹梅や亀甲、宝尽くしなどおめでたい吉祥文様、またその年の干支模様など、新春を感じさせる意匠のものを。お嬢様なら振袖も華やかで良いでしょう。

色無地の場合は染め抜きの一つ紋、または三つ紋付きで、地紋は吉祥柄のものを。

合わせる帯は金銀糸を用いた唐織、錦織などの量感のある袋帯を。こちらも吉祥文や正倉院文、格高の有職文などがふさわしいでしょう。

色留袖は亭主や正客の装いにも最適です。裾に柄を置く色留袖は座ると模様が隠れて色無地のように見えるのでお道具の邪魔をせず、お茶席に適った装いといえましょう。一つ紋ならば訪問着と同格、また三つ紋になると一層格高になりますので、お席の格に合わせてご着用くださいませ。

またお正月ですので、一年の始まりにふさわしく、何か新しいものを身に付けたいですね。

半衿や足袋、着付け小物でも良いですし、バッグや帛紗を新調するのも心が弾みますね。お稽古もまた新たな気持ちでスタートを切りたいものです。

テーマ茶会や年末年始のお出かけに関しては過去のコラムでも書き留めておりますので、あわせてご覧くださいませ。「今日は着物でvol.5」)

年末年始はお茶会以外にもお食事や趣味の会合、観劇などのお出かけも多いと思いますので、いつものお茶の着物に帯を変えて楽しんでみてはいかがでしょう。

その時にしか身につけられない趣味性の高いテーマ柄、季節柄はもちろん、出番を待ちあぐねている刺繍の帯や個性的な洒落袋帯、染の名古屋帯なども活躍してくれそうですね。

年末年始はぜひご自身の個性を際立たせる、とっておきの装いを。
どうぞ晴れやかな新年をお迎えくださいませ。

※2023年11月発行
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