お茶ときもの、あれこれvol.6 ― 先取り単衣で軽やかに、爽やかに
日が変わり、月は巡り、お茶の世界にもまた新しい季節がやってまいりました。
春を迎え、天井から釣った釜が風にかすかに揺れる様を楽しむ3月。
その釣釜(つりがま)も4月に入ると透木釜(すきぎがま)に取って替わられます。日に日に暖かさが増すため、炉の火が次第に鬱陶しく感じられるこの時期。そのため透木を用いて羽のついた平釜を炉縁に掛け、炉中の火が見えないように覆います。少しでも客を火から遠ざけようとする心遣いなのです。
そして4月の末には炉塞(ろふさぎ)が行われます。
炉開き以降、冬の間使っていた炉を炉蓋や畳を入れて塞ぎます。かつては陰暦3月の晦日に行う慣わしでした。炉の風情を惜しむ心から、名残と称して茶会が催される事も。そして再び風炉の出番がやってきます。
その5月初めに迎えるのが初風炉(しょぶろ)。
まさに新茶の季節である八十八夜に当たります。炉の時期とは道具や趣も変わり、今度は火や蒸気の熱を抑えて快くお茶が戴けるよう工夫がなされます。風炉にかける釜は小ぶりになり、茶碗も浅めに。花入れには涼やかな籠も用いられ、香合は陶磁器に替わって木製や漆器へ。
若葉が生い茂る、清々しい新緑の季節。夏へと向かうお茶はこうしてしつらえも改められ、また新たな営みが始まります。
暖かさから暑さへと向かうこの時期、更衣の方も気になりますね。
それではお着物の準備を始めましょう。
昨今の単衣事情
3月下旬ですでに25度を超える夏日もある昨今、袷を着ようか、単衣にしようかと迷うことが多くなりました。周知の通り、近年の気候変動の影響で単衣の着用が早まり、お茶の世界でも5~6月、また9~10月の単衣着用は新常識となりつつあります。
火の前での対応や水屋での作業も多いお茶の現場では、無理なく快く動ける装いを取り入れたいもの。とはいえ柄や透け感など、暦に準じる装いのルールは存在しますので、臨機応変かつ柔軟に対処したいものです。
色無地、江戸小紋

シンプルにして端正な色無地はお茶会だけでなく、他のシーンにも対応できる着回しの良い必携の一枚。紋を付けると準礼装となりますので、改まったお席や式典などに重宝です。
また江戸小紋はお稽古や大寄せのお茶会などに便利なお着物。フォーマル度の高い三役、五役はもちろん、場面に応じていわれ柄や幾何文などを身に付けるのもお洒落ですね。
小紋、付下げ
お茶席のみならず、柄のある単衣着物は季節感が大切。袷の時期に単衣を着る場合は季節を問わない古典文様や四季花、抽象文などが便利です。また春と秋の柄が共に描かれた春秋柄などは、どちらの更衣シーズンにも役立つ守備範囲の広いお着物と言えましょう。

合わせる帯

合わせる帯も暦に準じ、袷用から単衣用へ、透けないものから夏帯へと変えていきましょう。
最近よく見かける軽めのスリーシーズン帯も着用時期が長く便利です。柄も着物同様、季節を問わない古典文様や抽象文などが重宝しますが、その時期ならではの柄を身に付けるのも素敵です。
気をつけたい事、留意点
更衣の前後は着物まわりにも気を配りたいですね。 半衿も時節に合わせて袷用から単衣~夏用へ、また襦袢は体感温度に従って絽、紗、麻など通気の良いものに変えて行きましょう。汗をかきやすいこの季節は、洗える襦袢もとても便利です。
そして着物の透け感に留意しましょう。お茶席では立ち座りが頻繁ですので、腰付近や裾が気になります。ヒップラインが透けないように居敷当てを付けておくのがおすすめです。
お茶は時節の営みをを重んじ、何よりも周囲との調和を大切にする場。
装いは道具やしつらえと同じく、その調和を体現するものですので、単衣を先取りする今日でも、その季節感とのバランスを保ちながら着衣を決めて行きたいものですね。
この春から夏への過渡期も、どうぞご自身の心地よい装いを見つけにいらしてくださいませ。
きもの青木がお手伝いさせていただきます。
※2025年4月発行
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