きれい色の単衣きもの

さわやかな風や明るい日差しに誘われて、花々や草木の蕾がほころび始めました。
着物を着てお出かけしたいな…という気持ちも日々募るばかりですね。

きもの青木 オンラインショップでは、単衣時期や夏に向けての着物や帯のご紹介がスタートいたしました。特にご注目いただきたいのは単衣のお着物。近年では、五月頃を過ぎると汗ばむほどの陽気の日も珍しくないことから、活躍の機会もぐんと広がってきていますね。

とはいえ、袷に比べて、単衣はつい手持ちのラインナップが寂しくなりがちに…
この春、きもの青木では、幅広いニーズにお応えできる単衣のきもの各種をお手頃価格でご用意させていただきました。 季節に合わせた着物をまず一枚揃えておきたい、という初心者の方から、お稽古ごとなどで着用機会が多く枚数を揃えたい、という方にもおすすめしたいラインナップです。ぜひご覧くださいませ。

単衣の江戸小紋

着回しの良さではいちばんの優等生ともいえる江戸小紋。
鮫、行儀などの改まったお席に対応できる柄ゆきのものから、普段着にもお楽しみいただけそうな少し洒落味のある色柄ゆきのものまで、様々な雰囲気のものをご用意しています。
単衣の江戸小紋はコチラ

単衣の色無地

とろりとした光沢のある生地感がエレガントな色無地です。お色目は淡いベージュや落ち着いた薄いピンク色、清々しいブルーなどいずれもごく上品な雰囲気の淡彩がお顔色も明るく、晴れやかな表情を引き立ててくれます。地紋は格高の吉祥文様である桐竹鳳凰文が入っていますので、改まった場面やお祝いのお席にも安心してお使い頂ける品物です。

単衣の小紋ー蛍暈かし

ふんわりと浮かび上がる暈かしが上品な華やぎを添え、女性らしい優しげな風情の漂う装いを演出してくれます。紋を付けて略礼装とする場合もある上記の2種類に比べるとややカジュアル性は増しますが、合わせる帯次第では少しフォーマル性の必要な場面にもお使いになれますので、無地っぽい着物ばかりではちょっと淋しいな...という方にもおすすめです。
単衣の小紋・蛍暈かしはコチラ

帯合わせで季節感をまとって

単衣は袷と比べますとお手持ちが少なめという方が多く、一枚を上手に着回すコツも知っておくことも大事ですね。春から夏へ、夏から秋へ、どちらも移り変わる季節の合間であるからこそ、その時期ならではの趣を大事にした帯や小物選びを心がけたいものです。

例えば画像(左)のように、明るい色目を組み合わせたコーディネートならばこれから夏に向かう季節らしい爽やかな印象になりますし、画像(右)のように帯をダークな色目や季節を先取りした柄ゆきに変えてみると徐々に秋の訪れを予感させる時期にぴったりの落ち着いた印象になります。 少しの工夫で印象が随分と変わるのが着物の楽しいところでもあり、着る方それぞれのセンスの見せどころでもありますね。

実際、これからの時期にはお出かけに際して何を着たらよいものか…と迷われる方も多いのではないでしょうか。改まった場面やお茶席などでは決まり事に沿った装いがベターですが、気軽なお出かけでしたらご自身が快適に過ごせるかどうかも重要視して、臨機応変に装いを選んでいきたいですね。
皆さまくれぐれも体調にはご注意の上、素敵なお着物ライフをお楽しみくださいませ。

※2020年3月発行
※当サイト内の文章、画像等の内容の無断転載、及び複製等の行為は固くお断りいたします。

今日は着物で。vol.5 心華やぐ装いで、年末年始をより楽しく

ふだんの着物に慣れてきたら、年末年始にはいつもより少しだけ華やかなきもの、選んでみませんか。
11月も半ば、令和元年も段々と残り少なくなってまいりました。12月に入れば素敵なイベントがたくさん待っていることと思います。新しい年が明けて落ち着くまでの年末年始は、慌ただしさの中にも楽しい時間が散りばめられていて、大人になった今もやっぱりふわふわと心浮き立ちますね。この季節だけの輝きに包まれた街を背景に、私たちも心華やぐ装いで素敵なときを過ごしたいもの…
「今日はきもので。vol.5」今回は年末年始の華やかな装いのポイントをまとめてみました。

年末年始は一年のうちでも着物が映える場面がとりわけ多く、この機会に着物を着てみたいな、と思う方もたくさんいらっしゃることと思います。年末にはクリスマスパーティや忘年会、年越しの集まり等々、年始には初詣や年始のご挨拶、初釜など着用のチャンスには事欠きません。女性は忙しくもあるときですが、忙中閑あり。着物をまとうことで時間の流れも緩やかになってくれるような感も…この年末年始は初心者の方もぜひ、着物で過ごしてみませんか。

1.種類別の格とTPOから考える「華」

華やかな装い、と言っても実に様々です。色の印象が華やかなもの、柄の格の高さが華やぎを呼び込むもの、金彩や繍いが贅沢な華を見せるもの…また裾模様、絵羽、小紋、無地など柄付けの場所や量によっても変わってきますね。
先ずは着物の格とTPOについて簡単におさえておきましょう。

色留袖
色留袖の華やかさは「仕立てと紋」で調節

留袖は第一礼装として最も格の高い着物です。色留袖で染め抜きの五ッ紋付は叙勲や親族の結婚式に出席する方の装いとなりますので、今回のような場面では少々重すぎますね。同じ裾模様でも比翼が付いていないお品、一ッ紋や繍い紋など細かな部分でやや格を抑えた軽めのお品でしたら、訪問着と同様にお楽しみいただけます。重めの袋帯を合わせてホテルなど大きな洋の空間でのパーティ、また社中の雰囲気によっては初釜にいかがでしょうか。

訪問着や付下げ
訪問着や付下げの華やかさは
「柄の格と分量」で選ぶ

「華やかな装い」のイメージに最も近い着物が訪問着かもしれませんね。
反物を一旦着物のかたちに仮縫いした状態で、全体に柄がつながる絵羽模様で装飾されたものが訪問着。また反物のかたちのままで大まかに柄がつながるように装飾されたものが付下げです。共に社交着としての扱いですが、柄の置き方や量によっても印象が大きく異なり、正装としての格を備えた訪問着からちょっとしたお食事にも気軽にお召し頂ける付下げまで、幅広いお品が創られていますね。重厚感のある色柄でしたら重めの袋帯を合わせて、ホテルなど広い空間でのパーティや初釜などに。モダンで少し軽やかさのある色柄でしたら洒落感のある袋帯を合わせて、レストランのクリスマスディナーや新年のパーティなどに。軽めの付下げでしたら袋帯や織名古屋帯を合わせてより幅広い場面でお楽しみいただけます。
*厳密には仕立て上がった状態で訪問着か付下げかを別けることはできませんので、きもの青木 では基本的に胸から衿にかけても続いた柄を置いたものを訪問着としています。

色無地や江戸小紋
色無地や江戸小紋の華やかさは
「色」が決め手

先回の特集「礼を尽くした装いでー色無地・江戸小紋」でご紹介したように、色無地や江戸小紋は紋の有無や合わせる帯次第で、華やかなお席、改まったお出かけ、気軽な街着まで幅広い場面に対応できます。年末年始にお召しいただくならば、明るいお色目でストレートに華やぎを表現するも良し、重厚感のあるお色目に新年の厳かな心持ちを託すも良し。お出かけ先に合わせて、帯や小物合わせなど様々なかたちでご自身の個性や拘りをお楽しみいただけますね。 *特集「礼を尽くした装いでー色無地・江戸小紋」もご参考下さいませ。

小紋
小紋の華やかさは「柄と密度」に注目

小紋と一括りにしましても、やはり技法や柄置き、またモチーフの扱いによっても実に様々…絞りや繍い・型染めや手描き、連続模様や飛び柄、古典意匠からモダンな抽象文やシンプルな縞格子 etc. 枚挙にいとまがありませんね。もちろんモチーフにもよりますが、基本的には地空きの部分が大きい無地感覚のお品ほど格が高く、贅沢な絞りは洒落みが強い、縞格子はカジュアル度が高い、という印象でしょうか。例えば画像のような彩り美しい古典意匠の飛び柄小紋は、染め帯を合わせていただけば街着として気軽にお楽しみいただけますし、袋帯を合わせればちょっとしたパーティなどにも充分対応できる格調と華を備えています。上品な華やか小紋はおすすめのアイテム、合わせる帯次第で年末年始のお出かけを殆どカバーしてくれそうですね。

紬や織物
織りの着物の華やかさは
「素材と織りの光沢感」で決まる

紬や御召・染織作家作品など先染めの着物も、糸質や風合い・色柄などによって豊富なバリエーションがありますね。本結城に代表される真綿系の紬はほっこり素朴、大島や牛首など生糸系の紬は滑らかで光沢のある地風がややドレッシーな趣きです。西陣御召や錦織の着物は改まり感のあるものも多く、技法や文様次第では礼装用となるような気品豊かなお品も見られます。また手間暇を惜しまぬ仕事から生まれた作家作品は、輝くような存在感こそが華。織りの着物がお好きな方でしたら、紬や織物に「華やかさ」を探す、そんな選択も楽しいですね。

2.お正月にはなにか新しいものを、ひとつ

着衣始 (きそはじめ) は元々、お正月に新しい着物に袖を通すことを指しますが、着物や帯だけでなく、帯締めや帯揚げなどの小物、肌襦袢や足袋、半衿等々…帯枕や腰紐等の着付け小物でも良し、お正月には何か一つでも新しいお品を用意しておきたいですね。新しい年の始まりを厳かに待つ心持ちが整います。師走に入れば年末まではあっという間、早めに心がけておくと安心ですね。

3.まずは帯替えからはじめてみる

年末年始はただでさえ出費が嵩むもの・・・。イベントに合わせて着物を選ぶほどの余裕があれば良いのですが、きもの初心者の方にはなかなか勇気がいりますね。そんな方には帯替えから始めてみることをお勧めいたします。 第1章の基本を踏まえた上で、TPOに合わせたそれぞれの「華」を考えながらコーディネートを楽しんでみてはいかがでしょうか。
ここで柄選びのNGポイントをおさえておきましょう。
十二支の帯は年内から年明けまでお使いいただけますが、梅、福寿草、南天、水仙、玩具柄 などの帯は新春・お正月向きです。雪だるまなども冬柄ですが、年が明けてから松の内の間はもう少しお正月感のある華やかなものにシフトした方が良いと思います。

帯替えシミュレーション
季節ごとの帯をクリックしてみてください。

イベントごとに帯を替えるだけで印象が随分と変わりますね。
お手持ちの着物でも、帯や小物合わせを替えて幅広い装いをお楽しみくださいませ。

  • 普段の帯
  • クリスマスには
    洋風唐草文
  • 年明けには
    おめでた尽くし
  • 普段の帯
  • 雪輪文様で
    はんなりクリスマス
  • 年明けには
    貝合わせ文
  • 普段の帯
  • クリスマスには
    聖夜のイメージで
  • 年明けには
    宝尽くし
  • 普段の帯
  • クリスマスには
    モダンな袋帯
  • 年明けには
    松竹梅
  • 普段の帯
  • クリスマスには
    洋の色を取り込んで
  • 年明けには
    雪持ち南天
  • 普段の帯
  • クリスマスには
    寒色系の染め帯も
  • 年明けには
    正月遊びのモチーフで

年末年始のお出かけには、心華やぐ装いを。
着物ならではの特別な充足感を、ひとりでも多くの方に楽しんでいただけたらと願っております。お茶の席や目上の方への年始のご挨拶ですと、お相手に失礼のないようにとの配慮が必要ですが、それ以外の場面であればこの季節のお出かけはひとりひとりが主役です。ご自身が素敵な時間を過ごすための「華やかな装い」、心を満たしてくれるそれぞれの装いを自由にお選びになってみてはいかがでしょうか。

※2019年11月発行
※当サイト内の文章、画像等の内容の無断転載、及び複製等の行為は固くお断りいたします。

礼を尽くした装いで -色無地・江戸小紋 –

夏の暑さがひと段落しましたら、秋冬のお支度も気になり始めます。
お茶のお稽古をなさっている方でしたら炉開き、口切り、初釜、お子様がいらっしゃる方でしたら卒入学などの式典や成人式、そして結婚式やクリスマス、新年などの集まり…etc.
秋から冬、そして新年・早春にかけては様々なイベントが続き、着物を着る機会も多いことと思います。

現代の生活の中で敢えて「着物を着ること」を選ぶ方々は、ファブリックとしての多彩な美しさ、洋服ではなかなか出会えない贅沢な手仕事、色合わせの妙に魅せられた、等々、拘りをお持ちの方が多いのではと思います。
そんな皆さまにとっては、着物は特別な日のためのものではなくもっと普段の生活に近しいもの。だからこそ大切なお呼ばれのための礼を尽くした装いにも、いつもの自分らしさを活かす、そんな装いが主流になっていくのではないかと思います。

いつもの自分の延長線上でフォーマルを考える…
そんなとき、まず思い浮かぶ着物が色無地や江戸小紋ではないでしょうか。今回は着回しの良さで群を抜く色無地・江戸小紋の装いに改めて注目してみたいと思います。
過去にお届けいたしました特集「今日はきもので。Vol.1 江戸小紋を着る日」も合わせてご参照くださいませ。

染め紋と縫い紋

紋付の着物もフォーマル度は様々。
染め抜きの日向紋で五ッ紋を筆頭に繍いの一ッ紋まで、紋の種類や数によってそれぞれ正装から略礼装まで装いの格が細かく別けられます。
ただ近年では容認の幅が少しずつ広がってきている着物のTPO、ゲストとして出席するホテルの結婚披露宴などでしたら、染め抜きの一ッ紋色無地に重めの袋帯で充分に対応可能と思います。
日向紋
(染め抜き紋)
縫い紋

地紋のこと

綸子の華やかな光沢、縮緬のふっくらとしたしぼ…
同じ色無地でも生地の質感や光沢によってその表情は大きく異なり、お顔映りやお色の印象も様々です。お部屋の照明や外光などによっても表情が変わってきますので、その微細な変化も楽しみのひとつですね。

光りの加減で見え隠れする色無地の地紋には牡丹唐草や笹蔓などの名物裂の文様、小葵や桐竹鳳凰などの有職文、幾何文や割付文など、あらゆるモチーフが美しい地紋として用いられています。

万能とも言える色無地ですが、着用場面によって適した色や地紋が異なりますので、その点はちょっぴり注意が必要。
慶事用にはやはり明るめのお色で地紋もおめでたい吉祥文を選びたいものですが、慶弔両用にとお考えの場合には光沢を抑えた無地縮緬や紗綾型などで落ち着いた紫系や藍系、鼠系など暗めのお色となってしまいます。慶弔共にというよりは、弔事用とそれ以外で別けてお選びいただいた方が選択や着こなしの幅が広がり、楽しくお召しいただけそうですね。
落ち着いた色目でも、弔事には南天のような吉祥文はふさわしくありません。
セミフォーマルから街着まで
合わせる帯によって幅広いシチュエーションでお楽しみいただけます。
ここではほんの数例ですがコーディネートのポイントを紹介させていただきます。
華やかなお席へ

光沢の美しい色無地や細かな柄の江戸小紋は、重厚な帯の背景としても万能です。ボリュームのある唐織や精緻な技術が冴える綴織など、装いの主役となるようなお気に入りの帯をお持ちの方は、帯の存在感を際立たせた装いも素敵ですね。

少し改まったお出かけに

ご紹介する機会の多い繍一ッ紋の色無地や江戸小紋には、有職文や名物裂など格調高い古典意匠の織名古屋帯を合わせて。お値段的にもお手頃な西陣のお品、茶道など和のお稽古をなさっている方はもちろん、観劇などちょっとしたお出かけにも、着物らしいきちんとした印象の装いを気軽にお楽しみいただけます。

人間国宝が手掛けた精緻な意匠

人間国宝 中村勇二郎

伊勢型紙 道具彫の人間国宝・中村勇二郎さんが手掛けた精緻な型を用いて、熟練の職人さんの手で糊置きをして染め上げられた伊勢型小紋。
一般的な江戸小紋では目色と地色のどちらかに白を入れますが、京都で染められるこちらの伊勢型小紋は目色・地色共に色が入ります。二色のコントラストが小さく、より無地に近い印象ながら、優れた型ならではの奥行きを感じさせる趣深い景色の品々、こちらもきちんと礼をわきまえた装いとして様々な場面で活躍してくれることと思います。

中村勇二郎さんのお品一覧はコチラ

人間国宝 小宮康孝

江戸小紋といえば小宮さん…人間国宝として大きな功績を遺されたこの方は、先代から引き継いだ高度な技術を次世代に繋ぎつつ、道具や型紙などの存続や改善に尽力なさいました。
精緻な型を冴えた色で染め上げた作品は凛として清々しく、江戸小紋らしい爽やかな気品が着る人をしっかりと支えてくれます。
染めや縫いの紋が入っているものでしたら、お茶の席にも安心です。

小宮康孝さんのお品一覧はコチラ

一歩控えたおかあさまの装い
七五三から始まって入園や入学、そして卒園や卒業式など、お子さまのいらっしゃる方は数年おきにいろいろな式典が続きます。華やかな社交着よりも一歩引いた感のある色無地や江戸小紋でしたら、お子さまが主役である式典の装いとしても最適ですね。
合わせる帯次第で表情が変わる着物は、くり返しお召しになっても新鮮な印象です。
気に入ったお色目を用意しておけば安心ですね。
お好みの帯の背景としても
色無地には基本的に染めや繍いの一ッ紋が入っている場合が多いですが、紋の入っていない色無地や江戸小紋はより気軽にお召しいただけるアイテムですね。
季節の花の帯や作家作品などお好みの染め帯を合わせていただけば、街着やお稽古などにとても重宝いただけます。

もう25年以上も前のことですが、
波野好江さんの「初めて買うきもの」という著書を手に取りました。歌舞伎の世界で生まれ育ち、着物を知り尽くした方ならではの示唆に富んだ内容の一冊でしたが、この方が最初に買う着物を選ぶなら、とお薦めのアイテムがやはり、一ッ紋付の色無地でした。
どなたにとっても、あまりにも当たり前に在る着物かもしれませんが、その種類や着こなしの幅はなかなかに奥が深いもの。

比較的お手頃にお求めいただけるリユースだからこそ、あれこれしっかり試してお似合いのお色、お気に入りの一枚を見つけてくださいね。

※2019年8月発行
※当サイト内の文章、画像等の内容の無断転載、及び複製等の行為は固くお断りいたします。

名古屋帯で過ごす、夏の装い

風薫る五月、気温もぐんぐんと上がってすっかり夏めいてきましたね。
まもなく夏支度!過去に当コラムでは縮や上布、ゆかたなどの夏きものについてご紹介させていただきましたが、今回は素材も織りも様々な夏の帯たちをご紹介いたします。

絹素材の夏帯

夏帯の素材と種類は本当に多種多様です。まずは夏の絹素材からみてみましょう。

地に絽目の入った織りの帯で、袋帯・名古屋帯ともにつくられています。絽目とは経糸の一部を絡めて透き目をつくった織り目のこと。透き目の方向や柄によって竪絽や変わり絽などに区別されます。

絽塩瀬

染め帯の染め下地に良く使われる素材で、絹らしい光沢のある滑らかな風合い。薄手で絽目が入っており、その粗密で透け感も様々です。九寸名古屋帯に仕立てます。

絽綴れ

張りのあるしっかりとしたつづれ地に絽目がはいった素材で、芯の入らない八寸名古屋帯に仕立てます。袷時期の綴れと同様に、絽綴も金銀糸を用いた格調高い柄のお品は、八寸帯でもフォーマル対応が可能です。

透け感の強い紗織りの地に唐織などが重ねられた織りで、フォーマル系の袋帯が多く見られます。 平織りすくい織りなどと組み合わせて柄を織り出す紋紗の名古屋帯などもございます。

粗紗

紗よりも太めの糸を用いたより隙間の大きい織りによる帯。幾何学的な柄や、豊かな個性で人気の高い西陣の帯屋帯屋捨松さんのお品など、カジュアルな八寸名古屋帯がよく見られます。

本羅

人間国宝の喜多川平朗さんや俵二さん、同じく人間国宝の北村武資さんの作品に代表される大変複雑な構造の織りで八寸名古屋帯のかたちです。似たものはあれど、本羅を製織なさる機屋さんは極少数です。

他にも生糸素材ではなく、紬糸を用いた手織りのお品や産地ものの夏バージョン(夏牛首や夏黄八丈、夏久米島など)もつくられています。

苧麻素材の夏帯

苧麻資材の帯は、用いられた糸質や太さ、織りの密度や布の薄さによって八寸名古屋帯も、芯の入った九寸名古屋帯もつくられています。麻素材特有のひんやりとした肌触りは暑い夏にはとても心地良いもの。芯の入った九寸は透け感も少なめですので気温の上がる早い時期から夏を通してその清涼感を楽しめます。また芯の入らない八寸は、素材そのものが確かな涼しさを約束してくれますね。

越後上布

国の重要無形文化財に指定されるお品は、経緯に稀少な手績みの苧麻糸を用いて地機で丹念に織り上げられます。八寸名古屋帯のかたちでは芯が入りませんので熱が籠もらず涼しく風を通し、盛夏にも快適な着心地を約束してくれます。

宮古上布

国の重要無形文化財に指定されるお品は、経緯に稀少な手績みの苧麻糸を用いて高機で織り上げられます。芯の入った九寸名古屋帯に仕立てられることが多く、草木染めの美しい彩りが盛夏の光に美しく映えます。

八重山上布

経糸には紡績の苧麻糸を、緯糸には手績みの苧麻糸が用いられる八重山上布は、苧麻独特のさらりとした風合いと島に自生する植物から得た草木染めによる美しい色が魅力。九寸名古屋帯に仕立てられたものが多く見られます。

能登上布

経緯とも紡績の苧麻糸が用いられ、高機で丹念に織り上げられます。深い藍色や整然と並ぶ絣模様が特徴の能登上布、芯の入った九寸帯が多く見られます。

その他 自然素材の夏帯

芭蕉布

沖縄の風土から生まれた芭蕉布は、バナナの一種である糸芭蕉から大変な手間暇をかけて取りだした繊維を用いて織り上げられる美しい布。水に強く熱を放出する能力に優れた素材で、こちらもその技術が国の重要無形文化財に指定されています。

他にも芭蕉布(糸芭蕉の繊維)、シナ布 (シナの木の樹皮)、藤布 (藤の蔓の繊維)、葛布 (葛の蔓の繊維)、楮布 (和紙の原料でもある楮の繊維)などの特殊な植物素材は、原始布或いは古代布と呼ばれ、縄文の頃から用いられてきたと言われる布です。 上記のような素材は、糸そのものに強い個性があり、ナチュラルで野趣豊かな布味が魅力ですね。

芭蕉布につきましては過去の特集コラムでも一度とりあげていますので、そちらもご参照くださいませ。
「特集コラム:芭蕉布を着こなす」
さっと見渡してみても、こんなにもバラエティに富んだ夏の帯、 今年はどんなお品をお選びになりますか?

夏帯の時期とは

夏帯を使う季節については、夏きものと同様にいろいろなきまりが気になりがち。でも改まった装いが必要な場面でなければ、そんなに気になさらなくても大丈夫です。 基本は、5月下旬あたりから9月一杯までを目安に。また何月何日等の細かい季節に合わせるのではなく、合わせる着物が「単衣や薄物」であること、でしょうか。

以前は例えば「麻は7月と8月に」と言われていましたが、近年はずいぶん気候が変わってきていますので、洒落着でしたら5月に単衣と合わせて芯の入った麻地の染九寸帯などをお締めになる方もいらっしゃるのでは?きものと同様に体感でお考え頂いて良いと思います。
特に最近の西陣の帯などでは、連休明けくらいから夏を通して秋口までお使い頂いても違和感のない、薄手で軽い透け感があるお品等、スリーシーズンお使い頂けるタイプの帯も増えています。 素材や織りのバリエーションが多いだけに難しく考えがちな夏の帯、ご自身の感覚で気軽に楽しんでくださいね。

涼やかに見せる 帯まわり

この時期にしか使えないけれど、独特の風情を備えた夏帯はとても魅力的です。 様々な素材や地風を知ることで夏きものもより幅広くお楽しみいただけるのではないでしょうか。
続いては、一点添えることで涼を運ぶ帯まわりの小物たちをご紹介いたします。

帯留めは夏帯との相性がとても好いですね。透明感のあるガラスや石、細工の凝ったアンティークの帯留めなど、確かな存在感のある夏らしい一品に拘ってみてはいかがでしょうか。装いに大人の気品を添えてくれることと思います。 こちらのお写真では、きもの青木銀座店のご近所、アンティークモールに入っていらっしゃる「夕顔」さんから素敵な帯留めをお借りいたしました。

繊細な絹糸の房がさらさらと涼しげなタッセルチャームは、夏小物で活躍する籠バッグや日傘、扇子などに結いてお洒落を楽しんでみてはいかがでしょうか。見た目の涼やかさだけでなく、ふとした時に肌を滑る房のやさしい触感に心もやすらぎ、小さなお守りのようです。 こちらは丁寧な手技で美しいお念珠を創られている「ひいらぎ」さんのお品。細部まで拘った洗練された表情が素敵ですね。
タッセルチャームはこちら

帯枕にも天然素材を取り入れて。こちらはへちまで作られた帯枕。へちま独特の質感と程よい柔らかさが夏帯ととても馴染みが良いのです。 へちまは軽くて吸湿性も高く、通気性にも大変優れていますので夏のお太鼓結びを快適に支えてくれます。ガーゼもへちまも水を通して洗えますので、汗の気になる季節にも気持ち良くお使いいただけますね。
へちまの帯枕はこちら

気軽なお出掛けでしたら帯枕も外してしまいましょう。銀座結びなどの変わり結びで少しでも熱の籠もらない涼やかな背中を維持したいですね。名古屋帯は半幅帯よりもボリュームがありますので、ヒップラインなどもカバーできるのが嬉しいところ。博多帯や麻の帯など、素材によってとても表情豊かになりますので、いろいろとチャレンジししてみてお気に入りの変わり結びを習得してみてくださいね。

きもの青木 おすすめの夏帯

栗山工房の夏帯

1952年、栗山吉三郎さんによって始められた型染めが栗山紅型です。和染紅型とも呼ばれ、沖縄の紅型の魅力を京都らしい洗練された感性を通して表現、型彫りから糊置き、彩色など全ての工程が工房内で手作業によって行われています。型染めの楽しさをたっぷり楽しんでくださいませ。
栗山工房の帯はこちら

本場筑前博多織 八寸名古屋帯

博多八寸名古屋帯は、紬や小紋、浴衣から夏織物、夏小紋など幅広い装いに合わせて、一年を通してお使い頂けるとても重宝なお品です。特に昔ながらの独鈷・華皿に縞を配した献上柄は、格調高くも独特の小粋な風情を備え、装いをきりりと引き締めてくれますね。涼しげにお使い頂ける綺麗な淡彩を取り揃えましたので、ぜひご覧くださいませ。
博多帯の商品はコチラ

着物初心者を卒業されても、夏きもの、夏帯は未経験の方も多くいらっしゃるようです。近年の夏の猛暑からも夏の着物を敬遠してしまいがちなのかもしれませんね。
きもの青木には日々多くの着物や帯が行き交い私たちもたくさんの素材に触れておりますが、やはり上布や芭蕉布など、この季節独特の織りには別格の魅力を感じます。自然素材のものは着込むほどに身体に馴染んでいきますし、織りの多様性や見事に季節を映し出した柄付けなども実に楽しいものが多いですね。
皆さまにも素敵な夏帯との出逢いがありますように。

※2019年5月発行
※当サイト内の文章、画像等の内容の無断転載、及び複製等の行為は固くお断りいたします。

今日は着物で。vol.2 春のはんなり はおりもの

着物でお出かけする機会が増えてくると、どうしても必要となってくるはおりもの。寒さも秋口まではストールで何とかしのぐことが出来ますが、厳寒期にはやはり防寒コートが欲しくなりますし、梅雨時には雨コートも必需品。また気温の高い季節だからといっても、外出時には汚れの危険がいっぱい…大切なお召しものを護ってくれる塵よけも用意しておきたいですね。また風情ある羽織のお洒落に魅せられてしまう方も多いことと思います。 今回は、素材などに悩みがちなこれからの季節の羽織ものを中心に「はおりもの」のポイントをまとめてみました。

1. はおりものの種類や季節、素材につきまして

(1)種類:

さまざまな種類のはおりもの、どれも着物に重ねて着用するアイテムです。それぞれの特徴を簡単にまとめてみました。

① 道行

着物用のコートとしては最も基本的なもので、イラストでご覧頂けます通り、四角く開いた衿部分と打ち合わせ部分に特徴のあるかたちです。防寒・塵よけ用ですが、素材や色柄によってフォーマル性の高いものとカジュアルなものに分かれます。

② 道中着

衿が見頃の裾まで続いており、着物と同じような衿合わせのコートです。脇に付いた紐で留めますので、とても脱ぎ着し易いかたちです。防寒・塵よけ用ですが、基本的にはカジュアルな印象となります。

③ 羽織

裾まで続く衿を外側に折り返したかたちの羽織りもの。前部分は重ならず、乳(ち) と呼ばれる共布の輪に羽織紐を通し、左右の見頃を結び留めて着用します。基本的には洒落着の扱いですが、紋を入れてセミフォーマルな場面に対応できるお品も見られます。厳寒期には道行や道中着の下に重ねても。 

④ その他 和装コート

他にも和装コートとしていくつかバリエーションがございます。道行に似ていますが角を円くした「都衿」、また「被布衿」や「千代田衿」、そして道中着と似ていますが衿に特徴がある「へちま衿」や「きもの衿」など、様々なお品が見られます。防寒・塵よけ用ですが、基本的にはカジュアルな印象となります。

⑤ ストールやマント

洋服用の大判ストールやマントなどを上記のコートの替わりになさる方も多いですね。防寒にはファーやカシミヤ、春先にはシルクシフォンやパシュミナなど素材や質感の選択肢も広く、脱ぎ着の手間も掛かりませんが、塵よけとしてはやや心配かもしれませんね。

⑥ 雨コート

文字通り、雨から着物や帯を護るためのコートで、道行型、道中着型、二部式など様々なかたちのものがあり、撥水加工を施した絹素材や、水に強い合繊素材が用いられています。

(2) はおりものの季節

着物や帯と同様に、羽織りものにも大まかな季節の括りがありますね。とりわけ春先から晩秋にかけては素材もめまぐるしく変わり、着用時期にはとかく悩みがちですが、現代では気候やお召しになる方の感覚に添ってお召し頂いてよろしいのではと思います。

  •   → 裏地の付いた仕立てのもので、素材は絹やウール、カシミヤなど
  • 単衣 → 裏地を付けない仕立てのもので、素材は絹や木綿など
  • 薄物 → 絽や紗、羅やレースなど透け感のある夏生地を単衣に仕立てたもので、素材は絹など
基本的には、12月~3月のやや暖かくなる頃までは「袷」のものを、3月から連休辺りの気温が上がる頃までは「単衣」を、以後9月頃までの暑さが残る間は「薄物」を、暑さが引いた9月後半から11月後半の肌寒くなる頃まではまた「単衣」、
のように、ご自身の体感でお選び頂ければよいのではないでしょうか。○月○日からは「○○」といった決まり事で考えず、生地の風合いや質感、その日の気温、下に着る着物によって臨機応変に行ったり来たりしながら、ご自身の体感で温度調節してお召し下さいませ。

(3) はおりものの格

紋が入っていたり、華やかな絵羽模様のはおりものは、着用場面や合わせる着物に悩んでしまうことがありますね。着物とはおりものの格についても少し触れておきたいと思います。この場合の「格」は形や柄ゆきで決まりますので、縮緬や綸子、絽や紗などの生地質に拘わらず同様にお考え下さいませ。

□ 無地の道行

吉祥文の地紋が入ったものなど色無地の道行は、はおりものとしては最もフォーマル性が高く、留袖や訪問着など格高の着物から小紋など幅広い着物に合わせてお使い頂けます。

□ 紋付の羽織

女性の羽織は基本的には洒落着の扱いですが、紋付の場合には合わせる着物次第で入卒の式典、改まった訪問など略式ながら礼を必要とする装いの際にお召し頂けます。

□ 絵羽の道行

訪問着や付下げのように柄が繋がった絵羽の道行は、とても華やかで存在感がありますね。色柄にもよりますが、少し改まったお席やパーティなどへのお出かけにいかがでしょうか。

□ 絵羽の羽織

訪問着や付下げのように柄が繋がった絵羽の羽織は、礼装としての格を必要としない華やかなお席にぴったりです。個性あるお洒落をお楽しみになりたいときに、ぜひお召し下さいませ。

□ 小紋柄や紬の道行、道中着、羽織

小紋柄や紬地のはおりものはお買い物やお食事など、日常のお出かけに気軽にお召しいただけます。 サイズが合わなかったり汚れてお召しになれなくなったお着物も、羽織や道中着に仕立て直して楽しむこともできますので、季節や気分に合わせていくつかお手持ちのものを増やしておくとお洒落の幅がぐんと広がりますね。

(4) はおりものの着用マナー

大まかながら、以上のような内容を目安にお考え下さいませ。

はおりものの着用マナーは
・道行・道中着・和装コート・雨コートなどは屋内に入る前に脱ぐ→ よく言われるのがオーバーコート感覚
・羽織は屋内でも着用していて良い              → よく言われるのがジャケット感覚
とされています。
羽織以外はお出かけ先に入る前に脱ぐことが前提です。例えば華やかな裾模様の留袖の上にカジュアルな小紋の道中着、などという場合には見た目にも違和感が出てしまいますが、全体を眺めて調和がとれていれば、さほど神経質にならなくて良いのではと思います。羽織りものも着物と同様、フォーマルとお茶席以外でしたら、先ずは好きなものを好きなように楽しむことが一番ですね。

2. サイズのポイント

はおりもののサイズのポイントといえば、やはり長さでしょうか。 道行、道中着、それぞれ裾までのたっぷりしたものから膝下長めのもの、膝すれすれくらいの長さ等々お好みもさまざまですね。

身長別サイズガイドをご参照頂きますと、初めての方にも大体のイメージを掴んでいただけるかと思いますのでご参照くださいませ。
羽織は以前は短めのものもありましたが、現在では膝丈ほどの一般的な長さや膝下まである長羽織のどちらかをお選びになることが多いようです。こちらもお好みが大きく分かれるところですね。

きもの青木 で新しく仕立てたお品は、ご希望が多いため100cm〜103cm程の丈が中心です。このぐらいの丈がありますと、電車などで汚れ易い膝裏辺りまでをカバーできますので、塵よけとしても安心かと思います。

雨コートはなかなか裾ぴったりの長さに出会うのが難しいものですが、リユースでサイズが合うものに出会えましたらとてもラッキーですね。意外に重宝なものがポーチに入った二部式のお品。持ち運びも楽ですし、着付け方に合わせて裾が雨に当たらないよう調整できますので安心です。

3. 羽織紐のこと

羽織のもう一つの楽しみは胸元にちょこんと乗っかる小さな紐。
帯締めと同じくしっかりと組み上げられた組紐のお品や、ビーズや天然石を使ったアクセサリー感覚のものなどいろいろです。組紐でも長めのものは蝶結び、短めのものは固結び、同じ紐でもずいぶん雰囲気が変わりますね。きもの青木 では京都の衿秀さんのお品から、使い易いお色目で紐先が撚り房のお品と苧環(おだまき)のお品をご紹介しております。きりっとした固結びのシンプルな姿も素敵ですが、ゆったりとした蝶結びも女性らしく優しい印象ですね。 皆さまのお好みはどちらでしょうか。

衿秀さんの羽織紐はコチラでご確認くださいませ。

※時折、乳(ち) に通しにくい硬い紐もありますね。
 引っ掛けるだけで紐を付けられるS鐶のご用意もございます。

4. 春夏のはおりもの いろいろ

暖かさやふっくらとした風合いなどに惹かれてしまう秋冬ものとは異なり、春夏のはおりものは透け感や色が創る「爽やかさ」が一番のポイント。着る人にとって実際に涼しいことはもちろん、見る側に伝わる清涼感も大切ですね。

お手入れの楽な合繊素材もありますが、やはり繊維が呼吸してくれる絹素材は、温度や湿度が高い季節にはとりわけ着心地が違います。紗や絽、羅やレース、夏織物…選択肢がぐんと増える夏素材、きっとお好みのお品が見つかることと思います。

大島紬や夏大島などでサイズの小さなものを見つけて、雨コートや薄物コートに仕立て替えをなさっても素敵ですね。

道中着 E-630

落ち着いた色目の無地の絽は礼装としてもお使いいただけるのでとても重宝します。

道中着 E-646

明るいパステルトーンの紋紗はお着物の色を透かして様々な表情をお楽しみくださいませ。

道中着 E-842

レースのような刺繍が美しいはおりもの。透明感のある陰影がエレガントですね。

道中着 E-848

竪絽の道中着は単衣から夏を通して使えますね。爽やかなお色目でスッキリとした印象に。

道中着 E-896

ほんのり甘さを添えた控えめな色柄の紋紗。江戸小紋や無地紬などに好相性ですね。

羽織 E-1016

オーガンジーに華文が刺繍で施された羽織。濃色のお着物に軽やかな涼感を添えてくれます。

羽織 E-1015

菱の紋紗にふわりと蛍暈かしが浮かぶ夏の羽織。淡色の夏着物に合わせてすっきりと。

道行 E-874

さっくりとした透け感が軽やかな道行。シックなお色目が大人の品格を備えていますね。

お着物で外を歩く時にはやはり、何か一枚羽織っていると安心感が違いますね。
着物の着用シーズンと僅かなずれがあるだけに迷ってしまいがちなはおりもの、あまり難しく考えず寒暖に合わせて柔軟にお楽しみ頂けたらと思います。 きもの青木 のはおりもの、こちらからご覧くださいませ。

※2019年3月発行
※当サイト内の文章、画像等の内容の無断転載、及び複製等の行為は固くお断りいたします。

名前を持った紬 — 丹精をこらした逸品 vol.08

今回は〈紬〉を取り上げてみたいと思います。養蚕の際には、二頭の蚕によって一つの繭がつくられた「玉繭」や、穴ができていたり汚れが付いている「屑繭」など、商品にならない繭が必ず一定数生じます。機械による工程に適さないこのような繭は、農家が自家用に座繰りの玉糸や真綿紬糸の原料として利用していました。糸に負担のかからない手作業で引き出すがために、玉繭から生まれる玉糸も真綿から生まれる真綿紬糸もたっぷりと空気を含み、その糸を用いた織物は丈夫で着心地良い着物として愛されてきました。
紬織物が盛んな地は、かつては養蚕業の産地であったことが殆どです。全国に散らばっていた自家製の無名の紬が洗練され、とりわけ評判の高かった品が人々から求められ、淘汰され…そして今、私たちが手に取る上質な紬はみな、名前を持っています。いまや特別な憧れと共にその名を呼ばれる紬、今回はそんな素敵な織りの着物に注目してみました。

現代の紬は、糸遣いもいろいろ

養蚕農家の方が自家用に織った布を原点とする紬。当時は糸取りから染め、織りにいたる全てがその家の女性の手作業であったと思われますが、現代の紬織物はその工程を部分的に簡略にしています。例外的に昔ながらの工程を踏襲、一切の動力を使わずに手でつむぎ ぎだした「真綿手紬糸」を経緯に用い、原始的な地機で製織する本場結城紬は、その技術が国の重要無形文化財に指定されていますね。 作家作品など一部の特殊な紬を除き、他産地が用いるのは良く似た呼称の「真綿手紡糸」。糸車などの道具や一部に電動の器具を用いることで作業効率を上げ、また製織もより生産性の高い高機によるものが殆どとなっています。 例えば伝統的工芸品の指定要件も、使用する糸については生糸・玉糸・真綿のつむぎ糸から選ぶ等、同じ産地のものでも幅があります が、代表的な紬は主に下記のような糸を用いています。
  • 本場結城紬・・・器械を使わず、撚りをかけずに手で引き出した「真綿手紬糸」を経緯に用いる。
  • 郡上紬・・・経糸には玉繭から引いた玉糸、緯糸には品質の高い春繭の真綿手つむぎ糸を用いる。
  • 塩沢紬・・・経糸に生糸や玉糸を用い、緯糸に真綿の手つむぎ糸を用いる。
  • 小千谷紬・・・経糸には玉糸または真綿の手つむぎ糸、緯糸に真綿の手つむぎ糸を用いる。
  • 信州紬・・・経糸には生糸 (山繭糸を含む)・玉糸または真綿の手つむぎ糸、
  •                緯糸には玉糸または真綿の手つむぎ糸を用いる。
  • 牛首紬・・・経糸には生糸・緯糸にはのべ引き (座繰り)で引いた玉糸を用いる。
  • 黄八丈・・・経緯の糸に生糸を用いる。(例外的に玉糸や真綿つむぎ糸も用いる)
  • 大島紬・・・経緯の糸に生糸を用いる。

指定要件とされている「真綿の手つむぎ糸」は基本的には「真綿手紡糸」ですので、「本場結城紬」の糸がいかに特殊で贅沢なものか、がはっきりとおわかり頂けるかと思います。 牛首紬や黄八丈、大島紬などは正確には「紬糸」を用いていませんが、かつては紬糸を用いた歴史がある場合や、先染めの織物である等々の理由から広義に解釈して「紬織」に入れられています。

きもの青木がおすすめしたい 紬

[ 本場結城紬 ] 産地:茨城県結城市・栃木県小山市を中心とする地域

殆ど撚りをかけずに真綿から引き出した糸を糊の力で地機にかけ、糸に負担を掛けずに織り上げられる本場結城紬。 機から下ろして糊を抜けば真綿そのもののふっくらとした柔らかさを取り戻します。長く着込み、洗い張りを重ねることで経緯の真綿の毛羽が絡まり合い、良く言われるように「真綿に戻ってゆく」そんな素晴らしい風合いをお楽しみ頂けます。

国指定重要無形文化財の要件としては「真綿手紬糸を用いる」「手括りによる絣」「地機による製織」が指定されています。

現在本場結城紬の地機の証紙が添付されているお品で、濃地に淡色の絣の場合には上記3つの要件全てが含まれますが、淡地に濃色の絣の場合には「手括り」のかわりに「直接染色」(捺染等)の技術が用いられています。厳密に言うならば要件の1つが外れることとなりますが、人気の高い淡色地の絣を手括りで作るのは、手間や技術・価格面でも現実的ではありません。作り手の方に伺えば、手括りも捺染も非常に神経を使う作業であることは同じ。絣模様でなければ、縞や無地も要件を満たす訳ですから、諸事情から本結城の産地が証紙から「重要無形文化財」の表示を外した件については、いろいろ考えさせられてしまいます。
着回しの良い無地や、帯合わせがし易いすっきりとした飛び柄が主流となっている現在の本場結城紬、最近では総柄のお品は目にすることが少なくなってきました。作り手さんのお話でも手の掛かる総柄は今後殆ど生産ができないとのことです。きもの青木では、総柄の100亀甲など昔ながらのどっしりと風格のある本結城のご紹介にも力を入れています。選りすぐりの色柄は、きっと歳を重ねる毎に愛着の増す一枚になることと思います。お目にとまりましたら、ぜひお手に取ってご覧くださいませ。

[ 郡上紬 ] 産地:岐阜県郡上市

経糸は玉繭から引いた節のある玉糸を、緯糸には選び抜いた春繭の本真綿から手でつむいだ糸を用い、草木で丹念に染め、高機で織り上げる郡上紬。かつては自家用の織物とされていたその土地の織りをもとに、紬織の人間国宝・故 宗廣力三さんが、様々な試行錯誤、大変な苦労を重ねて育て上げた贅沢な紬です。
「自家用」であった紬の原点を見据え、一見素朴ながらこの上なく丁寧な仕事が積み重ねられた布。美しい彩りのグラデーションを生かした縞や格子・横段の景色は、無作為のようにみえて綿密な色の計算によって生み出されています。着物を広げれば毛羽がぱちぱちと小さな音を立てる、真綿独特の軽くふくよかな質感。陽の光を受けた途端に輝きはじめる、澄んだ彩りの競演。厳寒期にこそ力を発揮する、たっぷりと空気を含んだ糸の暖かさ。一つ一つの工程にしっかりと手を掛けられたお品ならではの確かなちからが、着る人の心を満たしてくれることと思います。 郡上紬は、人間国宝作家としての宗廣力三さんご本人としての作品とはまた別個の素晴らしい業績です。こちらの工房でも近年生産が激減しているとのこと、寂しさが募るこの頃です。

[ 浦野理一さんの紬 ]

日本各地の伝統的な染織技法やその歴史についての深い理解をもとに、吟味された素材と妥協のない仕事によって、その一つ一つを最高のかたちで再現なさった染織家・浦野理一さん。その美意識と共に工房を引き継いだ範雄さんも既に制作を終えて久しいですが、衣装担当として親交が深かった小津安二郎さんの映画と共に、今も色褪せぬ魅力で多くの方を魅了していますね。
紅型や藍の型染め・辻が花や小袖など染めの作品の数々も大変素晴らしいものですが、やはり瓢箪糸と呼ばれる大きな節のある手引きの真綿糸を経糸にも用いる経節紬の着物や帯は、個人的にもとても印象深い作品。何十年も前にミセスの誌面や多くの書籍で何度も眺めた品々は、今手に取ってみてもとても新鮮です。きもの青木でも長い間数多くの品々をご紹介してまいりましたが、どれもみな手放し難い魅力に悩まされました。 浦野さんの紬は、無地であったり縞・格子や絣、先染めのもの後染めのものなど様々ですが、例えば本来の素材は木綿であったり生糸であったりしたものを真綿糸でより美しく表現されたものも見かけます。浦野さんの一貫した持論は「心のこもった良いもの、はやりすたりのないものを作る」とのこと。平易な言葉のようですが、誰よりも厳しいご自身の眼に適うものづくりで、この論を通す難しさはいかほどかと思いますが、年月を経て、その意思が確かに実現されていることに驚かされますね。年を追う毎に、浦野さんの紬をご紹介する機会も少なくなってまいりましたが、状態の良いお品を選んでおります。これはという出会いがございましたら、ぜひ長いお付き合いをお楽しみ下さいませ。

[ ざざんざ織 / 伊兵衛織 ] 産地:静岡県浜松市

静岡県浜松市の工房・あかね屋さんで製織されている「ざざんざ織」は、柳宗悦の民藝運動に共鳴した平松實さんの創作に始まる工芸色豊かな絹織物です。一般的な紬織用の糸の4倍程の太さに撚り合わせた極太の玉糸を草木で染め、手機で織り上げる布は、どっしりとして厚手ながらしなやかで嵩張らず、また皺になり難い独特の布味は袷時期にも単衣仕立てで充分暖かくお召し頂ける、頼り甲斐のある着物です。
ルーツを同じくする浜松市の旧家・高林家で織られる「伊兵衛織」も用の美と共にモダンな洗練を併せ持つ個性豊かな織物で、多くの方に愛されてきましたが、作り手の求める国産の玉糸の供給が途絶えたことから先年その歴史に幕を下ろしました。 玉繭は全ての繭の総数の2~3%の割合と言われており、また現在、国産の繭の生産量は1%弱。99%以上が輸入に頼っています。この数字を見るだけでも、国産の玉繭から引いた玉糸を用いることがどれほど困難であったかが良くわかりますね。
玉繭からの繰糸は自動化が難しく、例えば加藤改石さんの牛首紬の「のべ引き」による糸も、芝崎重一さんがお使いの赤城の「座繰り」による糸も、一度に60~70個ほどの繭を熟練の技術によって一気に引き出したもの。ほとんど撚りを掛けずにたっぷりと空気を含んだ糸を使用しています。ざざんざ織や伊兵衛織も同様に、熟練の技術で糸に負担を掛けず、ゆっくりと引いた糸を用いることで、このようなふくよかで贅沢な着心地が生まれているのですね。 仕立て後にほんの僅か残されていた伊兵衛織の余り布を取り出してみれば、その端からは極太の甘撚りの艶やかな糸端が沢山出ています。一般的な紬の4倍といえば、経糸緯糸それぞれ大変な本数の玉糸がふんわりと寄り添ったもの。風合いはもちろんのこと糸そのものの光沢も見事です。無地であったり、縞や格子であったり…選び抜かれたお色で構成された景色はとてもシンプル。普段のお出かけに気軽にお召し頂けるカジュアルさを備えながらも、真摯な仕事が重ねられたお品ならではの迫力が、着手に心地良い緊張感を与えてくれますね。
こうして眺めてみますと、同じ絹であっても「糸」というものの在り方がいかに重要であるかをしみじみと実感いたします。 時間をかけて繭から引き出した貴重な糸、そして手間を惜しまぬ誠実な仕事から生まれた「名前を持った紬」。長いときを共に過ごしたいと思う特別な一枚に、ぜひ巡り会って頂きたく思います。
きもの青木 で扱っている紬(セレクション)の品々は、こちらからご覧いただけます。

※2018年11月発行
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